……優しい人、か。
人って欲張りだ。それだけじゃ物足りなくなるのだから。全部を持ち合わせている人なんて、いるはずがないのに。
「結婚、やめるかもしれない」
「どうして!?」
「このまま結婚なんてしていいのか不安なの」
「なーんだ、マリッジブルーか」
香織が笑う。
マリッジブルー?
単なるそのひと言で片付けてもいいもの?
高柳さんへの気持ちが冷めかけてるのとは違うの?
考えるほどに分からなくなる。
自分の心なのに、全く読み取れない。
「高柳さんみたいに紳士で素敵な人、ほかにいると思ってるの? いったいなにが不満なんだか」
香織は呆れ顔で私を一蹴した。
そんなことはわかってる。わかっているから悩んでいるのだ。このまま手離していいのか、留まるべきなのか。
ふたつにひとつしかない選択。
いつも間違えたほうを歩んできた私には、どちらが正しい道なのか、見出す術はなかった。



