穏やかな街の中で私の心だけがざわめいている。


どうしてかは分からないけれど、なんとなくアルスの手を少し強く握った。


そんな私の手を握り返してくれたアルスは、そっと私に声をかけた。



「俺が幼い頃から行きつけの小さい店があるんだけど、お腹の空き具合どう?」


「結構歩いたからペコペコに近いかも」


「じゃあ、少し早い夕ご飯としようか」



こくりと一つ頷くと、優しくアルスがリードして行く。


水のせせらぎと、花が風にそっと舞うその光景が夕日によってきらりと輝く。


美しいこの世界での1日がもう少しで終わってしまう。


明日が来たとしても……私は帰るべき場所はここにはない。


本当の住むべき世界に帰らなくてはいけない。