「…何が、ごめん、なの…?」

「…俺が、こんなだから…その…」

「もう、そういうの聞き飽きた…」

「海夏…?」


私の中で、何かが音を出して壊れたような気がした。
気付いたら、そう呟いていて、ずっと俯いていた顔を緋翠の方へ向けていたんだ。


「そうやって、私の前で嘘吐いて。他の人の前では、涼しい顔して私のこと笑ってるんでしょう?」

「海夏、それは違うよ」

「同じじゃない。もう限界。いいよ。お望み通りに別れてあげる。…その方が緋翠の為だもんね!…ばいばい…」



どんどん私の中が腐敗していく。
こんなことを言いたいんじゃない。
こんな風に緋翠を責めたいんじゃない。
でも…。

本当に、もう色んなことが限界だった。

そう思うと、涙が止まらない。
そんな私に、緋翠が手を伸ばしてくる。


「触らないで!」


ぽたぽたと落ちてゆく涙。
ギリッと噛み締めた奥歯。

私は伸びてきた緋翠の手を弾いて、微妙だった距離を更に遠くに置く。


涙の向こうに映ったのは、酷く悲しげな緋翠の顔。