きみとなら、雨に濡れたい




「千紘くん、ありがとね」

店を出てから高木さんはずっとご機嫌だ。俺はただ目の前にあったシャーペンを触っただけだったのに「千紘くんが見つけてくれた」と言い張っている。


「自分のは買わなくてよかったの?」

色は二種類あってピンク色もあった。高木さんは「こっちも可愛いなあ」と欲しそうにしていたのに、結局買ったのはブルーのシャーペン一本だけ。


「今日は妹のプレゼントだから自分のはいいの」

「ふーん。そっか」


コンクリートに映る影はやっぱりふたつ。風が吹くたびに高木さんの髪の毛からはフローラルの香りがする。


「ねえ、千紘くん」

信号待ちの横断歩道の前。行き交う車を横目に高木さんがまん丸な瞳で俺のことをじっと見ていた。


「な、なに?」

ヤバい。声がひっくり返った。

これはおそらく声変わりのせいじゃない。


「私のことを高木さんって呼ぶのやめない?」

「え、な、なんで?」

「だって同じクラスにもうひとり高木さんがいるでしょ?」 


たしかにいる。図書委員会で地味で眼鏡の高木さん。同じ名字でもここまで対照的だと可哀想になるぐらい。


「じゃあ、なんて呼べばいいの?」

「美憂でいいよ」


高木さんは俺と違って友達が多いから、こういうやり取りも慣れっこなのだろう。

それに比べて俺は信号が青に変わったというのに、すぐに歩き出せないほど動揺していた。


「どうしたの?早く行こうよ」


――美憂。心の中で呼んでみた。


天使のような彼女は高木さんよりも美憂のほうが似合う。


きっと、この頃から美憂は俺にとって他の誰とも違った。クラスメートの女子には心臓なんて速くならないのに、美憂の前では壊れたようにうるさかったから。