「あ、雨だ」
小暮が空を見上げた。ぽつりと、ダイヤモンドのような粒が青紫色の紫陽花の上に落ちていく。
天気予報では晴れだったのに、通り雨だろうか。
いや、もしかしたら、また美憂が降らせているのかもしれない。
「傘ないから走ろう」
小暮が私の手を引く。私は走り出さなかった。
その代わりに……。
「ねえ、これからは千紘って呼んでもいい?」
雨に背中を押されて、そんなことを聞いていた。
「……じゃあ、俺も和香って呼ぶ」
千紘の耳がほんのり色づいたのは、夕焼けのせいだろうか。
「私は呼んでいいなんて言ってないけど」
「はいはい」
私たちは手を繋いで走り出す。
きみとなら、濡れてもいいと思えるぐらい優しい雨だ。
美憂に手紙の返事は書けないけれど、心で繋がっているから、きっと届いているはず。
美憂のぶんまで、生きようなんてカッコつけたことは言わない。
私は、いや、私たちは。
美憂と一緒に幸せになっていこうと思う。
【きみとなら、雨に濡れたい END】



