きみとなら、雨に濡れたい



そのあと家に帰った俺の手にはまだ柴田を掴んだ時の感触が残っていた。

細くて折れそうな手首だった。まるで、華奢だった美憂のよう。


俺は乱暴にカバンを投げて部屋のベッドに倒れこんだ。空気の入れ替えができない部屋はどんよりとしていて、ずっと湿気た匂いがする。


家はごく普通の一軒家だけど、裏手にある大きな山はうちの私有物らしく、昔はけっこうお金持ちだったと聞いた。

その名残で田んぼや畑は有り余るほどあるし、庭も走り回れるぐらいの広さがある。

でもそんな敷地があっても、俺は部屋とトイレと台所を行き来するだけ。


そんな寂しさがある家にも美憂との思い出が詰まっている。まだばあちゃんの認知症がひどくなかった頃に、美憂はよくうちに遊びにきていた。

なにをしたわけでもない。ただ一緒にいて、他愛ない会話を重ねるだけの時間でも、美憂といると心が安らいだ。


そして帰り際にはいつも俺の両親の遺影がある仏壇に『また来ます』と手を合わせ、ばあちゃんには『お身体に気をつけてください。お邪魔しました』と丁寧に頭を下げる。

美憂は心の優しい人だった。

だから今でも思う。


どうして神様は生まれながらにして美憂に病気という重荷を背負わせたのだろうって。

いくら考えたって答えは出ないのに、俺は美憂がいないことを誰かのせいにしたいのだ。