きみとなら、雨に濡れたい




その手には紫陽花の前で佇んでいた時と同じ薄ピンク色の傘。


――『千紘くんって雨嫌いなの?私は好きだな。湿った匂いとかカエルの鳴き声とか。あと、ほらお気に入りの傘も雨が降らないとこうして差せないし』

そう言っていた彼女は傘の留め具が花のボタンになっていて、それも気に入ってると嬉しそうに話していた。


俺の瞳には同じ色の傘を差す柴田。そして開いた傘からは花のボタンの留め具がゆらゆらと揺れていた。


「……ま、待って」

思わず引き止めるように柴田の手を掴んでしまった。


「……なに?」

戸惑うように柴田はイヤな顔をする。


喉まで上がってきてる言葉。言ったところでまた睨まれるだけだというのに言わずにはいられない。


「その傘、美憂(みゆ)のじゃない?」

久しぶりに名前を口にした。


ザアーという雨音がやけに大きく聞こえる。いつもじっと見つめてくる柴田の瞳がわずかに泳いだ気がした。


「誰それ、知らない」

少し歯切れの悪い言い方をした柴田は俺の手をはらい、どしゃ降りは雨の外に消えていった。