きみとなら、雨に濡れたい




「でも俺、すぐに謝っちゃいそう」

「はは、千紘くんはそういうタイプだよね」


美憂の無邪気な笑い声を聞いて自然と心が和む。

長い髪の毛をすくい上げるように触って、俺たちは呼吸を合わせるように唇を重ねた。

そのまま強く抱きしめると華奢な美憂は折れそうなぐらい細かったけれど、体温は変わらず暖かった。


「千紘くん、約束して」

耳元で美憂の力強い声が響いて、そっと身体を離す。



「もしもこの先、誰かを好きになったら私に遠慮なんてしないでね」


美憂はまっすぐに俺を見ていた。

まるでそれは自分がいなくなるみたいな言い方で、胸が締め付けられるように苦しい。


「後ろめたい気持ちなんて感じなくていいから、千紘くんが自分で選んで後悔しない選択をしてね」

そんなこと言わないでよ、って流せなかった。
それぐらい美憂の顔が真剣だったから。


「約束ね」と、差し出された小さな小指。

美憂以外好きな人なんてできない。これからも側にいてよと、出かかっていることはいくつもあった。

でも、美憂に託された言葉を受け止めることが、美憂のことを本気で想っている証のような気がして、俺はゆっくりと小指を繋げた。


「分かった、約束する」

声が震えた、カッコ悪いぐらいに。

それでも美憂は「ありがとう」と、俺の大好きな顔で笑ってくれた。


それから、10日後。美憂は心臓発作により、そのまま眠るように息を引き取った。

急いで駆けつけた俺は、ベッドで目を瞑る美憂に触れた。あんなに暖かかった体温は、どこにもなかった。

自分が、どんな声をあげて泣いたのか分からない。


美憂は本当に天使になってしまった。

綺麗な穏やかな顔をして。


まだ梅雨が明けない6月の下旬のことだった――。