きみとなら、雨に濡れたい




美憂は寂しそうに窓からの紫陽花を見つめていた。頭の中で妹と過ごした日々を思い出しているような、哀愁漂う顔。


「実は俺、誰とも喧嘩したことないんだよね」

そんな美憂を見て俺が言うと、「え?」と視線が戻ってきた。


「両親は物心がつく前に事故でいなくなっちゃったし、なるべくばあちゃんにも迷惑かけないようにって思ってたから」


そのせいなのか、けっこう内気な性格に成長してしまい、友達はできないし。それでもまあ、本を読んだり勉強をしたり、それなりにひとりでも暇は潰せてた。

そういう時間の使い方しか知らなかったから、人とぶつかることもなかったのだ。

ギスギスしたり、ピリピリしたり。周りの人間関係を俯瞰で観察しながら、面倒くさそうだと思っていたけれど今は違う。


「喧嘩できる相手がいるって、すごいことだと思うよ。だって悩んだり相手のことを考えたり。それができるぐらいの絆が美憂と妹にはあるってことでしょ?」

それは他人では決して生まれない感情だと思う。


「あの紫陽花みたいに、また寄り添って仲直りできる時がくるよ」

「うん。ありがとう。千紘くん」


美憂が涙を拭いながら笑う。そして……。

「いつか千紘くんとも喧嘩できるといいな」と、美憂は俺の手を握った。