家に着いた私は、ママに向かって今まで通り明るく振る舞っていた。



「勇也、テレビのリモコンちょうだい」


「はいよー」


少し遅めの夕飯を食べながら、私はママに笑顔でリモコンを渡してあげたり、


「勇也、先にお風呂入ってきちゃうから。好きな事をしてていいからね」


そう言われた時には、


「うん、ありがとう!」


と、満面の笑みで返してあげたり。



「今日の委員会活動、どうだったの?」


そう聞かれた時にも、私は笑顔を崩さないで


「別に、いつも通り。楽しかったよ」


と、自分でも素晴らしいと思える程に嘘をつき通していた。


もう、これは嘘をついているというより、兄になりきって“私”だとばれない様にする為の策。


(これが、正しいの)


家に帰っても本当の事を言えない私は、ただひたすらにそれだけを思い続けていた。


花恋にも打ち明けられた私は、もう十分成長した。


これ以上何かをした所で、変わるはずがない。


ママは、私のことが分からないのだから。


ママの笑顔が見られれば、それでいい。


ただ、学校で“女子”になれればいいだけなのだから。



ずっとずっと、そう考え続けてきた事。


私は今日も、自分に言い聞かせる。