「りゅうさん…なんか、浮かない顔してる…具合悪い?」
何度目かのデートの後、その日初めて自分から手を差し伸ばして、そっと彼女の手の平を掴んだ。
最初の内は戸惑っていたけれど、観念したのか彼女は大人しくなって、その後でそう聞いてきた。
「…なんでそう思うの?」
俺をずっと追っていた視線は、こんなに弱々しくはなかった。
じっと自分に注がれるのを待つように、凛とした強さがあった。
…諦めも入ってはいたけれど。
「だって…いつもはこんなことしないから…もしかしてら何かあったのかなって…」
敬語が崩れて嬉しかったのにも関わらず、どことなく遠慮気味な彼女に、俺はおどけて見せた。
「りんに触れたかっただけだよ。だめ?」
と。
多分、彼女が好きだろう笑みを浮かべて。
案の定彼女は俺の視線から逃れるようにして、顔を朱に染めて一言だけ、
「もう…ばか」
と言って来た。
それだけで、いい。
そんな風に、彼女の中で作り上げられた、自分という虚像が上手い具合に崩れていけば…。
「ばかでもいいよ。それだけりんが大事なんだ」
そう言う俺に、彼女はもう一度だけ「ばか」と言ってくるりと背を向けた。
…手は繋いだままで。



