「空気?」
桃華は、俺の言葉を繰り返した。
「……病院に見舞いに来るのって大抵家族か友達だろ。俺は、患者のことを家族が心配してるのを見るのが嫌いなんだ。そういうあったかい空気が嫌いだ」
桃華は、ご飯も食べずに俺の話に聞き入った。
「…………俺には家族がもういないから」
どんなに泣いたところで、変わんなかった。
「……どういうこと?」
「捨てられたんだよ、小6の3月に。
……その日以来、親には会ってない。ていうか……何言われるかわかんなくて、怖くて会えねぇよ」
突如、桃花は俺の頭を撫でた。
「……病院に来ると、自分の存在価値がよくわかんなくなんだよ。周りにいる奴らはみんな家族で、患者のこと心配してんの。
じゃあ、家族がいない俺は?
……心配される価値もない?」