簡単に指紋の採取作業をして、管理会社に連絡したほうがいいですよと告げて、引き上げていった。

損害といえばドアスコープが抜かれただけで、ドアはマンションの共有区分だから管理会社の管轄だ。
つまり法的にわたし個人の被害はない、わけだけど・・・こんなに怖い思いをした、いやしてるのに。やるせない気持ちで立ち尽くす。

そんななか彬良くんはずっとわたしのそばにいてくれた。
ただの穴になってしまったスコープの内側にはとりあえずガムテープを貼って応急処置をして、もう遅いので明日管理会社に連絡することにした。

でも———これからどうしよう?

途方に暮れる、ってこういうことだろうか。

もうこの部屋にはいたくない。それだけははっきりしていた。

だけど、だけど・・・恐怖と衝撃に混乱しながら、だからこそなのか、あらゆることが頭を駆け巡る。

引っ越し、は難しい。敷金、礼金、引っ越し費用・・・それにここ以上にセキュリティのしっかりしたところとなると、家賃も今以上にかかってしまう。
実家を頼る、のも抵抗があって。なんだかんだ一人娘だから、一人暮らしもさんざん反対されて、説得を重ねてようやく実現したのに。
「だから危ないって言ったじゃない。悪いこと言わないから戻ってらっしゃい」なんてお母さんにくどくどお説教されて、強制送還されそうな予感がすごくする。

じゃあ、どうするの・・・?