彼の表情が一瞬硬くなり、すぐにいつもの涼やかな顔に戻った。

「本当、だよ」

あえて普段どおりの口調を心がけているような印象を受けた。

「早ければ来年早々にオープンじゃないかな」

「・・・彬良くんは、関わってるの?」

すこし、という答えが返ってきた。
「こないだの出張もそれがらみ。海外事業部がメインで動いてるし、もう向こうの提携会社にチームもある。ときどきヘルプを求められる程度だけど。損益分岐点を算出したり、Jカーブのリスクも含めた原価率の折衝とか」

後半部分はちんぷんかんぷんだけど、ともかく、やっぱり彬良くんも関わってるんだ。

「そうか・・全然知らなかった」つい沈んだ口調になってしまった。
「彬良くん、あんまり話してくれないから」

「俺の話なんか面白くないだろ」

そんな返事が欲しいんじゃない。
なんだけど・・・思えば長い付き合いなのに、彬良くんの話をじっくり聞いたことって、あったっけ。
いつもわたしが、「ねえねえ彬良くん」「あのね、彬良くん」「彬良くん、教えて」ってしゃべってばかりで。

彬良くんが自分のことをわたしに話そうとしないのは・・・話したって分からないから、なのかな。
そんな相手、彼女って呼べるんだろうか。