「……そして、今日ここに全員揃ったってわけ。偶然じゃなく、僕が仕組んだことだったんだよ」

「お前は、おばあさまの手紙を俺に読ませたかったというわけか」

「そうだよ。リタ様がフリード様に悔恨の気持ちを持ってた事だけでも、知っててほしかったし、……伯爵が、リタ様の遺書を探すために必死な姿も見たかったんだ。まあ、思ったほど必死感なかったけどね」


一通り話を聞いても、フリードの表情は変わらない。

バツが悪そうに上目遣いで見つめるミフェルを一瞥し、黙ったままゆっくりと手紙に目を通した彼は、最後の一文字まで読んだ後、ほんの少し肩を落とす。
湿り気を帯びた紙が、フリードの手の中でかすかに震える。


「……誰かを憎んでいないと、やっていられないときもあるんだ」


彼が漏らした小さな声に、皆が顔を上げる。


「母が去り、父が死に、尊敬していた叔父に自らの命を狙われるようになった俺が、ディルクとともに奮い立って生きるのには、怒りという原動力が必要だった。おばあさまは、すべての元凶だった。おばあさまだけが悪いわけではないが、……俺には、おばあさまに憎しみをぶつけるのが一番楽だったんだ」

「伯爵」

「俺は、……おばあさまに甘えていたのかもしれないな」


フリードがポソリとつぶやく。ミフェルが、憎まれ口を潜めてその姿を見つめる。
マルティナは、ミフェルとリタの間にあった絆に圧倒され、すべてにおいて完璧だと思っていた兄の、頼りなげな背中を見て胸が痛んだ。

なんとか励ましたい。でも言葉が出ない。
困り果てたときにマルティナが頼ってしまうのはやはりトマスだ。
そっと見上げただけだったが、彼はマルティナの要求を正確に感じ取り、少し考えてから「歌を……」といった。