そして、ベッドサイドの棚から、文箱を取り出した。


「遺書は執務室の机に入れてほしい。そして手紙のほうはこれに入れて土に埋めてほしいんだ。前に教えたろう。フリードが幽霊と間違えたあの苔のある場所。あそこに埋めておくれ。この体調では、自分で隠すことができそうにないから、……頼むよ」

「……勝手にそんなこと頼まないでよ」


受け取ったものの、ミフェルは迷っていた。
ありがたい申し出ではあるが、縁もゆかりもない自分がリタの遺産をもらうのはやはりおかしい。

それにミフェルが残したいのはフリードへの手紙のほうだ。

ミフェルは、この意地っ張りな老人が好きだった。だから、彼女が愛する人間にこれ以上憎まれるのを見るのは嫌だったのだ。できることなら生きているうちに、リタと伯爵を仲なおりさせたい。しかし、伯爵はほとんどこの別荘に来ないし、今となってはリタを本邸に連れていくことも難しい。

だったらせめてリタの意志で手紙を探してほしいと言わせたかった。

結局、ミフェルは遺書と手紙、両方を文箱に入れて岩の下に埋めた。
それを知ったリタは怒ったけれど、ミフェルは「だったら遺書を探せというメモを書いてよ。そうしたら伯爵だって遺書を探すでしょ」と反論した。