「他人の財産なんかいらないよ。それにリタ様、そんな簡単にくたばらないでしょ」


くたばらないでほしい、という気持ちのほうが強かった。からかうように言えばリタは反論するはずだ、と思ったのに、リタは静かに首を振るだけだった。


「当たり前だよ……と言いたいところだけどね。心臓の調子がいまいちなんだ。突然何かあったら、困るからね」

「そんな心配するくらいなら、伯爵と仲直りすることを考えれば? 後悔してるくせにさ。いいの? たった一人の孫と和解できないまま死んじゃっても」


それはミフェルの本心だった。他人の将来を心配するくらいなら、自分の心残りを解消する方法を考えればいい。後悔したまま死なれるなんてごめんだ、と。

その時のリタは虚を突かれたような顔をしていた。今さら、という思いと、それでもという思いが交錯しているのが見て取れた。

ミフェルはどう言えばこの老人の心を動かされるか考えた。だけど、どんな言い方をしても意地を張られてしまう気がして、結局シンプルにいつもの調子で続けた。


「口で言えないなら手紙で書けばいいじゃん」

「ミフェル」

「伯爵だって、憎み続けるよりは気が楽なんじゃないの。自分のためじゃなく伯爵のために書けば」


その一言が、リタの心を動かした。