アンネマリーも社交期が終われば領地へ戻ってくる。冬の間は二人でリタのもとへ通った。リタは毎回喜んで、おいしいお菓子とお茶で二人を迎えた。

だが、今年に入って、リタはたびたび寝込むようになり、昔は頻繁だったお茶会はずいぶんと回数を減らしていた。
しかし、ミフェルは呼ばれなくともリタのご機嫌伺いと称して別荘に通った。通常のお客なら帰されただろうが、ミフェルはもうカスパー公認のリタの友人だ。調子が悪い日は寝室にまで通された。

その日も、ベッドから離れられないリタの枕もとで本を読んでいた。ページをめくる音だけが静かに響く空間は心地よく、ミフェルはここに来ると時間を忘れてしまう。


「ミフェル、来てたのかい」

「ああ、リタ様起きた? おはよう」


目が覚めたときに、挨拶をするとリタはいつも目尻にしわを寄せて笑う。その笑顔にミフェルも嬉しくなる。
人から見れば老女と青年がこうも頻繁に会うのはおかしなことだろうし、いらぬ噂を立てられる危険性もあったが、ミフェルはそれでもよかった。リタは気の置けない友人だ。誰になんと言われようとも、リタとの時間を大切にするのだ。


「お前に伝えたいことがあったんだよ。遺書を残そうと思ってね」

「遺言?」

「そう。お前は次男だろう。本当なら士官するなりなんなり身を立てなければいけないと思うんだが、今のような態度で城仕えができるわけがない。これからの暮らしを考えれば、お前に残る資産は多いほうがいいよ。だからこの別荘をお前に残したいと思うんだ。ただ、何の血縁もないお前に渡すのは難しいからね」