「でも悪いのは旦那さんのほうでしょ。どうして女性って相手の女を恨むのさ。浮気って一人でできることじゃないでしょ。子種まで植え付けたのは旦那さんじゃん。子供にも孫にも罪なんてないのにさ」


はっきり言ったミフェルに、リタは呆けたような顔をした後、笑いだした。


「は、ははっ、お前は本当に面白い子だね。そこまではっきり言う子は初めて見たよ」

「だってさ。裏切られたのに、リタ様、ちっとも旦那さんのことは責めないじゃん。おかしいでしょ」

「そうさね。おかしいね。……でも」


笑いながら、リタの目尻に光るものをミフェルは見つけた。


「でもあの人のことは、……恨みたくないんだよ」


そこにいたのは、バカみたいに一人の男に心酔した女だった。老人と言われる年になってなお、女としての感情を捨てきれないリタを、ミフェルはかわいくもほほえましくも思えた。


「バカだと思うけど、かわいいね、リタ様」


それを素直に告げたら、リタはますます泣き笑いになった。


「生意気だよ、お前は本当にね」


おでこをぴしゃりとたたかれる。骨っぽいしわがれた手。リタは確実に老いていたが、そんな顔をするときはとてもきれいだと、ミフェルは思ったのだ。