伯爵令妹の恋は憂鬱



「ミフェル……お前もしかして最初からここに隠されていたのを知っていたんじゃないのか?」

「そうだよ。……ここに隠したのは僕だもん」

「えっ?」

それにはマルティナとトマスも驚きを隠せない。
だとしたら、遺書があるから探せと言って屋敷内をかき回した今までの茶番は一体何だったのか。


「俺がここに来るように、本邸に不審な手紙を出したのもお前だな?」

「手紙?」

「ああ。ディルクからの報告と前後して、不審な手紙が屋敷に届けられたんだ。『リタ様の遺書は屋敷に隠されている』という内容で、……それもあって、きちんと確認しようと俺は今朝屋敷を出てきた」

「それでお兄様がわざわざ……」


マルティナは納得がいった。
不思議だとは思ったのだ。フリードが来てくれたのは嬉しかったが、報告の時点では特にフリードのチェックが必要なものなどなかったはずだったから。


「……そうだよ。僕たちの来訪に合わせてフリード様が来られるように何とかしてほしいってカスパーに頼んだんだ。だって嫌だったんだよ。このまま、リタ様の気持ちが、伯爵に知られずに終わっていくなんて」

「おばあさまの気持ち?」

「だって伯爵知らないんだろ? 本当は、リタ様が伯爵と仲直りしたがっていたこと。あの人、口は悪いけど、本当は寂しがりなんだよ」

しょげたように、力なくうつむくミフェルの顔に、人を馬鹿にしていたような先ほどまでの表情はなかった。
フリードは身をかがめて、ミフェルの肩を掴む。

「もっと順序立てて話せよ。……お前はそもそも、どうしておばあさまと親しくなったんだ。俺はおばあさまとはずいぶん前からこじれたままだ。お前ほど、あの人のことは知らない」

迷い子のような表情で、ミフェルはフリードを見つめ、すがるように言った。

「……伯爵、聞いてくれるの?」

「ああ、知りたいと思ってる。おばあさまはお前になんと言い残したんだ?」

ミフェルはぐっとこぶしを握ったまま、岩に腰掛けるようにしてうつむいた。そして、ぽつりぽつりとリタとの思い出話を始めた。