伯爵令妹の恋は憂鬱



「その岩の後ろのほう……見てみなよ。掘り返した跡があるはずだ」

「え……」


トマスとフリードは顔を見合わせ、岩の後ろを見る。確かに、密集したコケが掘り返されて、土の色の違う箇所があった。

トマスが一度屋敷まで戻ってスコップをとってきて掘り返すと、直ぐにカツンという音がして固い何かとぶつかった。

「……箱かな?」


周りにまとわりついていた湿った土を取り除いても、あまりきれいにはならなかったが、トマスは汚れるのも気にせず拾い上げる。出てきたのは文箱のようなサイズの木製の箱だ。入れてからまだ時間が経っていない様子だが、ニスも塗られていない箱なので、ずっと入れておけば土に還ってしまうだろう。実際、箱は土から出る水分を含んでかなり湿っている。

そしてふたを開けると、白い紙に包まれたものが入っていた。
トマスが手の汚れを気にしていると、フリードが「俺が見よう」と前に出る。
くるまれていた白い紙をはがすとそこに『親愛なる孫・フリードへ』と書かれた手紙と『遺書』と書かれた書状が出てきた。


「これが遺書か。……それと手紙? それにしてもこんなところに隠すか?」


フリードはあきれ顔だ。
実際、“思い出の場所”と言われて見つかるような場所じゃない。
フリードがおびえた思い出はあれど、この場所の特定まではしていないのだから。

マルティナもトマスも眉を寄せたまま頷いた。ミフェルだけが、「そうだよ」とポソリとつぶやく。


「伯爵が言っていたのは正しいんだよ。リタ様はその手紙を隠したかったんだ。でも僕は、それが嫌だった」


フリードは顔を上げ、声の主へと向き直る。