伯爵令妹の恋は憂鬱



「あの辺で見ませんでしたか?」


フリードも窓によって一緒にのぞき込むが、小さく首を振った。


「どうだったかな、場所までは覚えていない」

「トマス、何か知ってるんですか?」

「ええ。ここに来た初日に、私も見たんです。光るものを」

「えっ? 幽霊を?」


びくんと体を震わせて、マルティナはすぐにトマスの背中にしがみつく。


「マルティナ様、大丈夫ですよ。幽霊ではありません。先日、ローゼ様と一緒に確認しましたが、あれは光るコケでした」

「コケ?」

「ええ。原理はよくわからないんですが、ローゼ様が言うには、夜になって周囲の光が少なくなると、角度によっては光って見えるんだそうです。……見てみます? 今は光らないでしょうけど」


トマスを先頭に、一行は庭に移動する。
広い庭の奥のほうで、土が湿っていて滑りやすい。フリードとミフェルは安定した足運びでずんずん進んでいくが、マルティナは何度も靴が滑って転びそうになる。そのたびに、トマスが手を伸ばして体を支えてくれた。
庭の奥のほう、木が密集し、岩がゴロゴロといくつか転がっている。その一番大きな岩を前にトマスが立ち止まる。


「このあたりだったはずです」

「あ、本当だコケだわ」


見ると、緑色のコケが岩にびっしりと張り付いている。


「ヒカリゴケというそうですよ。ローゼ様も知ってはいるけど実物を見たのは初めてだと言っていました」

「そんな不思議なコケもあるのね」


岩を前にトマスとマルティナが盛り上がっていると、しばらく黙っていたミフェルが口を開いた。