「その時のこと、何か思い出せないんですか?」
「そうだな。……五歳だろ? 家族そろって保養に来たのはあれが最後だったと思う。俺は遊び相手がいないから、ひとりで屋敷や庭を探索していたんだ。それは覚えてる。屋根裏に忍びこんだり、いろいろやって母親に怒られて叱られたっけな」
「お兄様も叱られることなんてあるんですね」
マルティナには想像がつかない。
「そりゃそうだろう。子供だったしな。……ああそうだ! 思い出した。それでも懲りなかった俺は、夜、抜け出して探検しようとしたんだ。そうしたら、庭でぼうっと光るものを見たんだ。それが幽霊かと思って怖くなったんだけど、母親には昼間しこたま怒られた後だから、言いづらくて。それでおじい様とおばあ様の寝室に行ったんだった」
珍しくおびえて頼ってきたフリードを、リタは抱きしめ、一緒のベッドで寝かせた。そして翌日、外出したかと思ったら、クマのぬいぐるみを買ってきたのだ。
「俺としては泣きついたのを思い出すから恥ずかしくて、もらったものの、そのまま放置していた」
一度思い出すと次から次へと記憶がよみがえってくるらしく、フリードはよどみなく続ける。
「……僕もその話、知ってる。せっかくやったぬいぐるみも大事にしないから、悔しくてその光るものの正体は教えなかったって言ってたよ」
ミフェルがぼそりという。フリードは嫌そうな顔で、「本当に何でも聞いてるんだな」とつぶやいた。
思い出話はほほえましいが、肝心の遺書につながる話は何も出てこない。……というところで、とトマスが思いついたようにつぶやいた。
「あれ、もしかして……その光るものって」
窓を開け、庭の一角を指してフリードを仰ぐ。



