伯爵令妹の恋は憂鬱




マルティナに、クマのぬいぐるみを差し出されて、フリードは微妙な顔をしたままそれを持ち上げた。


「確かに、……昔おばあさまが俺にくれたものだな」


整った顔立ちのたくましい体格のフリードが、ぬいぐるみを持ち上げている姿は可愛らしい。マルティナは思わず顔がほころんだ。


「うわ、伯爵、ぬいぐるみを欲しがったの? 可愛いじゃん」


ふざけるミフェルに、フリードはじろりと冷たいまなざしを向ける。


「うるさいな、お前は」


遠慮のないミフェルに、フリードはすっかり取り繕うのをやめたらしい。


「五歳頃かな。幽霊を見たと言って怖がったら、くれたんだ。これを抱いて寝れば怖くないと言ってな」

「幽霊?」

「そんな怖がりだったんですか、フリード様」


思わず口をはさんだのはトマスだ。フリードはじろりと睨み、渋い顔をしている。


「いや、……怖がりじゃない。むしろ昔から無鉄砲で探検好きだったはずなんだが。なんで幽霊がいるって思ってんだったかな。思い出せんな」

くるくるとぬいぐるみをまわして見るも、特にほつれた縫い目もない。

「このぬいぐるみの中にはなさそうだよな」

「そうですねぇ」


マルティナもフリードからそれを受け取り、ギュッと抱きしめてみる。遺書のようなものが入っているならば、手触りがどこか尖っていたり、がさがさと音が鳴ってもいいが、そんなことはない。