「そんなに前なんですか?」
「この別荘は祖父と祖母の気に入りだったから、父上たちが別れてからもあのふたりはよく利用していたが、俺はついてきても何も面白いことがないからと本邸に残っていることが多かったな。ああもちろん全く来ていないわけじゃないぞ。領地視察のときに、宿代わりに使ったことは何度かある。だがその時も、おばあさまとは二言三言しか話していないからな。とてもじゃないけど“大事な思い出”の手掛かりにはならないだろう」
「そうなんですね」
予想以上にリタとフリードの確執はある。マルティナはこれ以上突っ込んでいいものか迷ったが、ミフェルが苛立たし気にそれに口をはさんだ。
「なにかひとつくらいないわけ? 思い出すこと。何でもいいんだよ、ささいなことでもないの?」
「ないな。ずいぶん昔の話だし。……ミフェル殿のほうがよっぽどおばあさまと仲が良かったんじゃないのか?」
「僕との思い出なんて必要ないんだよ!」
むっとしてそっぽを向くミフェルに、フリードは苦笑しつつ立ち上がる。
「まあそう怒るな。……君がおばあさまと懇意にしてくれたのは感謝している。ではその思い出とやらを探すために、屋敷を一回りして記憶をたどってこよう。一緒に来るかい、マルティナ」
「は、はい!」
「……ミフェル殿も来るかい?」
余裕の表情のフリードに、ミフェルはいら立ちをあらわにしつつ「当たり前だろ!」と立ち上がった。



