伯爵令妹の恋は憂鬱



ミフェルの顔から余裕が消えた。
それを見て、マルティナは改めて兄をすごいなと思う。先ほどまでマルティナは完全にミフェルに振り回されていて、彼のことを怖いとさえ思っていた。けれど今、フリードに言い負かされているミフェルは、子供のようにも見えてくる。対応の仕方を変えるだけで脆く崩れる程度の圧力しか彼は持っていなかったということで、兄を尊敬する一方、自分が情けなくもなる。

フリードは紅茶をすべて飲み干してから、子供をあやすように言った。


「……まあ、いいだろう。今日いっぱいなら探してもいいぞ」

「本当? 伯爵」


パッと顔を晴らしたミフェルは、完全に子供のようだ。フリードはにやにやしつつ、顎に手を当てて、フリードは考えるしぐさをする。


「しかしおばあさまの大切な思い出と言ってもな。家族でここに旅行に来たのは子供の時しかないし、思い当たることもそんなにないがな……」


考え込むフリードの傍にマルティナはそっと近寄る。兄の過去には少なからず興味はある。


「子供の時って……何歳ぐらいの話なんですか?」


フリードはディルクをちらりと見て言う。


「かなり前だ。ディルクがうちに住む前だから……まだ両親が一緒にいたころだな。お前が生まれる前だよ」


マルティナは今十六歳だ。それより前だとすればフリードも五歳か六歳くらいの頃だ。