「……遺書とは、死後の自分の意思だ。本当に通したい意思なら隠したりしないんじゃないのか? つまり隠した時点で、それは見るなという意思表示だと受け取れる」
フリードの返事はミフェルには意外なものだったらしい。慌てたようにテーブルに両手を打ち付けた。
「ちょ、待ってよ。遺書はリタ様の最期の意思だよ。それを無視するっての?」
「無視はしていない。ただ、見てほしいなら普通は隠さないと思うだけだ」
「あーもう。調子狂うな」
ミフェルは髪をぐしゃぐしゃにかき回し、次の言葉を探しているようだった。
困ったようにあたりを見回し、マルティナに目を向けたところで思いついたとばかりに声を高めた。
「じゃあさ、僕が遺書の内容を伝えるよ。リタ様はこの屋敷を残したいから、僕にマルティナと結婚してここを相続するようにって言ってたんだ」
驚いたのはマルティナだ。それはミフェルの提案ではなかったのか。勝手に遺志にされては困る。
「う……嘘です! そんなの」
マルティナはトマスの服を掴みながらも、真っ赤になって反論したが、ミフェルはどこ吹く風だ。
「嘘だなんて証明もできないだろ」
しれっといわれて、反論できなくてうつむく。助けに入ったのはフリードだ。
「本当だという証明も出来ないな。そんな財産狙いのようなことを言われても、信用できるわけないだろう」
フリードが食いついてきたことで、ミフェルは瞳を輝かせて身を乗り出す。
「証明ならできるよ。遺書にはすべて書いてあるはずなんだ。だから遺書を見つけてほしい」
「遺書……ねぇ。他人の君に強要されて探すものではないな。仮に遺書にそんなことが書いてあっても、おばあさまにマルティナの結婚を決める権利はない」
「ああもう! 頭が固いな、伯爵様は! いいから遺書を探してよ。リタ様が最期に望んだことが何なのかくらい、知りたいって思わないわけ?」



