「でもリタ様にはまだ家族がいました」

「家族? それって顔を見にも来ない孫のこと?」


そう言われてはマルティナも言葉に詰まる。ミフェルは苦々しく笑って続けた。


「リタ様は旦那さんのことが大好きだったんだよ。駆け落ちまでしたくらいだもん。だけど、執着しすぎたら相手は束縛を感じて逃げたんだ。“夫は嫌気がさしてほかに女性を作ったんだ”と言ってたよ。その愛人の子をどうしても許せなかったって。当然だよって僕は思うけど、それで、孫にも嫌われたっていうじゃない? 子にも先立たれて、孫にも嫌われて……。かわいそうだよね。確かにリタ様はきつい言い方をする人だったけど、何も間違いはしていないのに」


マルティナは何も答えられなかった。
兄が、リタを嫌っているのは肌で感じていたし、マルティナが見た限りでは、祖母と孫の間に交流はほぼ無かった。

と、考え事をしていたマルティナの前に影ができる。いつの間にか、ミフェルが目の前にまでやってきていた。


「……反論しないね」

「え?」

「リタ様は“たった一人の孫”とよく言っていた。それってさ、フリード様のことだろう? おかしいよね。君はフリード様の妹だ。だとすれば孫はふたりのはず。君は一体なんなのかなぁ」

「……あ!」


マルティナは思わす口元を両手で押さえる。と、かばうように目の前に伸びてきたのはトマスの左手だ。