「僕みたいに、見た目もよくなくて後継ぎでもない貴族子息は人気がないからね。わざわざ気位の高い貴族の令嬢のご機嫌を取りに行くのも面倒だよ。僕は田舎で、のんびり暮らしたいんだ。嫌いな人間とは付き合いたくない。そう言ったら、リタ様は笑ってたよ。そんなことをしていては、いつか誰にも相手にされなくなるよ、とね。僕が危なっかしく見えたんだろうね。苦言を呈するような形で僕にいろんな話をしてくれた」


リタはもともとは社交的な人物だったとメイドたちは言っていた。孫のような年齢の彼に、何を伝えようと思ったのだろう。

しかしマルティナは疑問を率直に聞けるタイプではない。黙って思案にふけっていると、ミフェルは一通りドレスの確認を終えたようで、ドレスから手を離しマルティナのほうへと向かってくる。


「“誰のことも許さなかったから、ひとりになった”」

「……え?」

「リタ様が言っていたんだ。“結局、本音を言えない人間や、許すことのできない人間はひとりになるんだ”って」

「ひとりに……ですか?」

「ああ。リタ様はそう思っていたみたいだ。後悔していたのかもしれないね。“駆け落ちまでした恋を、両親が許してくれたから家族ができたというのに、私は人を許すことをしなかった。彼がした一度の過ちを許さなかったあの日から、どんどん人が自分のもとから離れていった”って言ってたよ」


それは夫の浮気を許さなかったことを言っているのだろうか。