歌いながら踊るのは、実際には大変だ。息が上がってしまって、足にまで気がいかなくなる。
それでも、顔を上げれば、トマスがにっこりと笑って、リードしてくれるのだ。この時間を終わりにするなんてもったいない。
胸がドキドキするのは、体を動かしているからだけじゃない。腰を抱いてもらえることが、息が触れるほどそばにいられることが嬉しくて仕方ない。
「これでフィニッシュにしましょうか」
トマスがマルティナの手を持ち上げる。くるり、と体を半回転させ、ポーズをとった。
「ほら、お上手じゃないですか」
手を支えたまま、トマスが息の上がったマルティナをのぞき込む。夢がかなった喜びで、マルティナは感極まっていた。
「はあ、はあ、トマスのおかげです」
「そんなことありませんよー。息が切れてる。お水をもらってきますね」
マルティナをしっかり立たせてから、手を離す。せっかくの夢のような時間が終わってしまいそうで、マルティナは思わず彼の背中に抱きついた。
「待ってっ」
トマスがびくりと体を震わせて止まる。マルティナ自身も自分の行動に驚いて硬直してしまった。
「マルティナ様?」
「トマス。あの、……私ね、その」
興奮しすぎて、気持ちが飛び出してしまいそうだ。リタのドレスに残された想いが乗り移ったみたいに、恋しい衝動が消せない。もっと踊って。お水なんかいらないから一緒にいて。トマスが好きなの。大好きなの。



