頭の中で音符が踊る。やがて体がうずうずしてきて、ひとりだけどステップを踏んだ。
好きな人と踊るのは、きっととても幸せだったろう。
このメモを見ていると、そんなことを思う。
「ララ……きゃっ」
「危ないっ」
足を自分のもう片足に引っかけてよろけたマルティナを抱きとめたのは、入口の方角から駆けつけてきたトマスだ。
「……トマス?」
「すみません。歌声が聞こえたもんでついついのぞき込んでしまいました」
悪びれもせずそう答え、マルティナをしっかり立たせてくれる。先ほどのハミングを聞かれていたとすれば恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「聞いてたの?」
「マルティナ様、本当にお上手ですよ。もっとみんなの前でも歌えばいいのに」
「や……恥ずかしいもの。下手なダンスも見てたの?」
「下手じゃありませんよ」
「下手だもん。実際ころんじゃったし」
「一人で踊ってるからでしょう? これはペアダンスのステップですよ。ほら」
トマスは、マルティナの片手を取ってうやうやしく礼をした。そして、腰を抱いて、ステップを踏む。マルティナは驚きつつも、合わせるようにステップを踏んだ。
「トマス……踊れたの?」
「昔エミーリア様のダンスの練習に付き合わされたので。……ああでも、音がないと訳が分からなくなりそうです」
「じゃあ、私が歌うわ」
いつもなら言い出さないようなセリフがポロリとマルティナから飛び出した。
だって、夢だと思っていたトマスとのダンスだ。音がないくらいでやめたくない。



