伯爵令妹の恋は憂鬱



数枚めくって、クリーム色のおとなしいデザインのドレスには【これを着て駆け落ち。裾の汚れが取れなかった】と書かれていて、マルティナは二度見する。駆け落ちだなんて物騒な話だ。だけど数あるドレスの中でこれが一番地味で目立たないことや、実際に裾に泥のような汚れが残っていることも真実味を感じさせる。

次のはワインレッドのドレス。その次はレースをふんだんに使ったローズピンクのドレス。
それぞれに、【彼の気に入り。大事な日は必ずこれ】、【仲直りにとくれたドレス。ワルツを踊った】と“愛する人”との思い出が書かれている。

おそらくもうリタは着ていなかっただろう若い人向けのデザインのドレス。それに、思い出をつづるようにつけられたメモ。それは今まで持っていたリタのイメージとは少し違った。
いや、そもそもマルティナはリタのことなど何も知らなかった。ただ最初に向けられた視線だけで怖いと思って近づこうとさえしなかった。

(……おじい様のことがすごく好きだったのかな?)

だとしたら、先立たれたのは寂しかっただろう。
怖いだけだと思っていたリタの輪郭が少しだけ描かれたようで不思議な気分だ。

「ダンス……お好きだったのかしら」

三拍子の音楽を、マルティナは何の気なくハミングした。ダンスは得意ではないが歌や音楽は大好きだ。誰も聞いていないと思うと安心して声が出る。