一方、ローゼは内心ひやひやしていた。
ローゼと瓜二つの女性・パウラが前アンドロシュ子爵家に軟禁されていたのは、今から十ヵ月ほど前の話だ。
当時のアンドロシュ子爵子息・エーリヒの協力で、万事解決しスキャンダルは内密のまま処理されているが、その事件にはローゼも関わっている。当時、エーリヒの子供たちと顔を合わせることはなかったので、ローゼのことは知られていないはずだが、本人たちを前にして冷静にはなれない。
それに、あの事件がきっかけで彼女たちの祖父は捕まえられ、死亡した。子爵位を継いだエーリヒは実直な人間で人柄もいいが、問題があった家系ということでこの年の子爵家の評判は今一つだった。アンネマリーの結婚話がうまくいかなかった原因の一つともなっているだろう。
ローゼが気まずさを感じるのは当然だったが、何も知らないアンネマリーは悪びれた様子もなく笑った。
「あなたのお名前、教えてくださる?」
「あ。ローゼ。……ローゼ=ドーレです」
「まあ。ではドーレ男爵とご結婚なさったのはあなただったの!」
アンネマリーは目を見張って色めきだった。
ドーレ男爵がかつて爵位はく奪の憂き目にあったことは、領内貴族ならば誰でも知っている。
復活したとはいえ、名門とはいいがたいのだが、アンネマリーはしきりに「いいなぁ。いいなぁ」と繰り返している。
ローゼとしては居心地がよくない。早くこの場をさりたくて、アンネマリーとの会話をまとめようと試みた。



