「その革ひもは?」

「紐編み、自分でもできそうな気がして」

「じゃあ、自分のものは何も買ってないじゃないですか」

「いいの。トマスだってそうでしょ?」

「私は使用人ですから。当たり前ですよ」


でも実際にここまで連れてきてくれたのはトマスだ。ローゼだってディルクへのお土産や髪飾りを選んでいるのだから遠慮などしなくてもいいのに。


「トマスも買っていいのよ。欲しいものはないんですか?」

「私は別に。……ああでも、だったらこれを」


それはエミーリアに贈ろうとしていたのと、色違いの髪飾りだった。
トマスにそんなものを贈る相手がいるのかと思って、マルティナの血の気が一気に下がる。しかし、買っていいと言ってから撤回するわけにはいかない。


「い、いいよ。トマス、お会計をしてきて」

「はい。マルティナ様はローゼ様と一緒にいてくださいね」


室内の暑さから、ローゼはストールを外していた。最初は挙動不審だった彼女は、工芸品店に入ってからはすっかり品物選びに夢中になっている。

トマスが会計している間に、店には一組の男女のお客がやってきた。そして、入るなり「えっ?」と突拍子もない声を上げた。


「……ちょっと君っ」


肩を掴まれたのはローゼだ。

ローゼがおびえた表情で振り向くと、そこにはよく似た顔の男女がいた。年のころは十代後半。栗毛の髪は男性のほうは短く、女性のほうは腰のあたりまである。目が小さめで丸鼻の可愛らしい印象の二人だ。しかし、マルティナは見たことがなく、疑問で首をかしげる。