「しかし、ご夫妻は通常一緒のお部屋で……」

「今回は私、マルティナ様の侍女代わりに、と思って来たんです。マルティナ様は人見知りですし、顔の見知った人間のほうが安心なさるんじゃないかしら」

「そうだな。妻は侍女の経験もある。俺はもう少し狭い部屋でいい。マルティナ様の寝室にもう一つベッドを運んでもらえるか」

「は、では」

カスパーは慌てて屋敷内の男性使用人を呼びつける。

「あ、俺も手伝います」

手を挙げたのはトマスだ。明らかに力仕事に向いてそうな男の申し出にカスパーも迷うことなく飛びついた。

かくして、無事に部屋割りも終わり、マルティナとローゼは部屋に入る。
これまでのやり取りですっかり疲れてしまったマルティナは、部屋に入るなり大きなため息をついてしまった。

「お疲れ様です」

「ありがとう、ローゼ。あなたが来てくれなかったら、私、きっと一人で寂しかった」

「……実は、トマスさんからの提案なんです。誰か一人、マルティナ様と顔見知りの女性を連れていけないかと。それで夫が私に一緒に来るようにって」

「トマスが?」

「ええ。トマスさんはわかってらっしゃるんですわ。屋敷では、当たり前のように従者として傍についていられますが、通常年頃の女性に男性の従者はつけません。マルティナ様はもう十六歳ですもの」

「……そうなんですか」

トマスから気遣ってもらえることが、マルティナはうれしかった。しかし同時に、当たり前のように引き離される年齢になってしまったことが悲しかった。
これ以上年など取りたくない。ずっとクレムラートの屋敷でトマスと一緒にいたい。