馬車は四時間も走っただろうか。途中休憩も入れ、ようやくたどり着いた別荘は、白壁で紺色の屋根の二階建ての大きな屋敷だった。

「お待ちしておりました」

使用人もまだ解雇していないらしく、人ひとりが生活するのに困らないだけの設備はそのままだ。

「マルティナ様、初めまして。この屋敷を管理させていただいております、カスパーと申します。不便があったら何なりとお申し付けくださいませ」

うやうやしく礼をする年配の執事は、丁寧な態度に反してマルティナを探るような目つきで見つめている。

「あ、ありがとうございます」

「カスパー、とりあえず部屋に案内してもらえるかな。遺産の確認については、明日以降マルティナ様と私で行う」

割って入ったのはディルクだ。マルティナはホッとして彼の後ろに隠れる。カスパーは若干笑顔を引きつらせながらも応対した。

「かしこまりました。では、こちらへ」

二階にあるゲストのための部屋を準備してくれていたようで、マルティナが左奥の一番いい部屋。ディルク夫妻の部屋とトマスにはそれぞれ右手側の部屋を与えられた。

「……ずいぶん遠いんですね」

マルティナはあからさまにしゅんとする。たった一人になってしまったようで、心細い。

「失礼ながら、未婚の女性を男性と同じ側にお泊めするのははばかられますし」

夜中にこっそり行き来されては大変だということなのだろう。カスパーは断固として譲らない様子で言い切る。

「……あの、私がマルティナ様と一緒のお部屋に泊まってはいけませんか?」

おずおずと手を挙げたのはローゼだ。