その翌日、ディルクは妻のローゼを伴い迎えに来た。

「女性が一緒についていったほうが、何かと便利でしょう。マルティナ様の話し相手にもなるし、ローゼは一通り侍女仕事もわかっています」

ローゼはかつて、クレムラート家でメイドをしていて、マルティナとも顔見知りだ。いろいろあって、ディルクに見初められ、今や男爵夫人である。

人見知りのマルティナは、知った顔というだけでホッとする。

「うれしいです。ありがとうございます、ディルクさま」

「そう言っていただけると私も助かります。妻を同伴したいなどというのは若干公私混同ですから」

ディルクが片目をつぶって人差し指を唇の前にたてる。まじめなディルクがこんな砕けた態度をするのは珍しく、それもローゼがそばにいるからなのかと思えば、自然に気持ちがほっこりとした。

「まあ。相変わらず仲がよろしいんですね」

「マルティナ様っ、からかわないでくださいませ!」

ローゼが腕に力を込めて反論すると、ピンクブロンドの髪が揺れる。
ジルケと同じ年のはずだが、性格のせいか彼女は少し子供っぽく見える。それでも、マルティナよりは二歳ほど年上になるのだが。

「ではフリード様、言ってまいります」

「ああ。頼んだぞ、ディルク」