自室に戻ってしばらくして、扉をノックする音がした。


「マルティナ様、入ってもよろしいですか?」


ジルケが旅行鞄を滑らすようにして入ってくる。亜麻色の髪を束ねた清潔そうな身なりの彼女は十八歳だ。


「トマスさんから荷造りを手伝うよう言い使ってまいりました。ご指定はあります?」


そのままクローゼットのほうに向かい、鞄を広げた。そこに、下着類を手早く詰めていく。


「ええと、旅先ですから動きやすい服がいいです」

「でしたらこちらのワンピースはいかがです? でも一着はドレスもいりますね。どんな来客があるかわかりませんし」

「来客?」

「リタ様のお悔やみに来られる方がいるかもしれないでしょう?」

「ああ。……そうですね」


弔問客はあらかたこのクレムラートの本邸に来たが、リタが住んでいたのだから、別荘地に人がいると知れたら確かに来るかもしれない。

マルティナはますます憂鬱になる。客の相手など、引っ込み思案な自分にできるわけがない。しかも、兄がいない以上、その場の主人は自分ということになる。


「……はあ、気が重いなぁ」

「あら、お仕事とはいえせっかくの遠出ですもの。楽しんできてくださいませ」

「そうね。ありがとう、ジルケ」


女性らしい気づかいのできるジルケ。今の自分と比べたらなんて大人っぽいんだろうと思う。
彼女だったら、トマスと並んでいても絵になるだろう。

考えてまた落ち込む。年齢差もトマスの気持ちも、マルティナにどうこうできるものではないのに、ことあらば考えてしまう自分が嫌だった。