「……さま、よろしいですか?」

「え?」

「滞在は一週間ほどになるそうです。荷物などをまとめなければなりませんね。後で誰か……ジルケにでも行くように言っておきます」

「あ、うん。……はい」


ジルケはクレムラート家のメイドだ。男のトマスにマルティナの衣服の準備ができるわけがないのだから、誰か女性に頼まなければならないのはわかるが、なぜジルケなのかと気になってしまう。


(いつもなら、メラニーなはずなのに)


メラニーは今、エミーリアの手伝いで精いっぱいなのだ。エミーリアは乳母を付けずに自分で育てたいと言っている。そのため、今は昼夜赤ん坊に起こされ、疲労困憊だ。メラニーがマルティナのためにさける時間などほとんどない。兄も、義姉も今はエルナに夢中だ。


(……それはそうよね。自分の家族だもの)


兄夫婦は愛情深い。だから、わがままになっているのかもしれないと思う。

本来ならば、自分は婚外子として捨て置かれてもおかしくない存在なのだ。それを屋敷に置き、妹だと公言してくれている。それだけで十分なはずなのに、ほんの少し寂しいと思ってしまう。