一緒に暮らしているとはいえ、トマスとマルティナの間はまだ清いままだ。
毎日キスはする。でも、トマスは結婚するまでは我慢しますといって、それ以上をマルティナに求めてこない。
遅い時間になればなるほど、彼は見せる愛情を、家族に対するもののように上手にシフトチェンジしてしまうのだ。

それはマルティナに安心感を与えたが、半年もすれば焦れてくる。
時折見せる、トマスがマルティナを求める視線。隠さないでもっと見せてほしいと思ったことは一度や二度ではない。
女としての欲が芽生えているのを、マルティナは自覚しないわけにはいかず、だけどそれははしたないことのようにも思えて、言い出せないまま心は揺れていた。

だから、トマスが結婚を早めると言ってくれた時は心底嬉しかったのだ。


「トマス、ちょっとこっちにこいよ」


手招きするのは、フリードとギュンターだ。
トマスは、マルティナをエミーリアの傍に連れて行ってから、ふたりに連れられて庭まで出る。


「お前は今後は俺の義弟ってことになるんだよな。年上なのにな、不思議な感じだ」


フリードがそういうと、ギュンターも笑う。


「そうだな。フリード殿が俺の義弟だから、俺にとっては義弟の義弟か。トマスが一番年上なのにな」

「なんですか。からかわないでくださいよ」


かつての従者が親族になったことを、嫌がるどころが喜んでくれるふたりに、トマスは感謝の念しかない。
いい主人に恵まれて今があるのだと感じずにはいられなかった。