『お前がいなくなるとマルティナが泣く。早く迎えに来れるように力を尽くせ』

『わからないところは私がご教授しますよ。スパルタですが』

ディルクが、口元に笑みを浮かべて片目をつぶる。

『……はい!』


トマスは吹っ切れたような笑顔を見せた。


そういって送り出したものの、フリードは、長くても二年のうちにはトマスを呼び戻すつもりだった。

マルティナの結婚に関しては、実際に私生児である以上、相手を選ばなくてはならない。
そういう意味では、事実を知ってなお結婚に乗り気なミフェルは適任と言えば適任だが、マルティナの気持ちを射止めるまではいかないだろう。
遅くとも十九歳までにはマルティナを結婚させたいと考えていたフリードとしては、その年までにトマスにある程度の実績を上げてもらえれば、何らかの肩書を与えるつもりでいた。

たった二年だ。マルティナも我慢するだろうと思っていた。けれど、トマスがマルティナを縛りたくないと言ったことでトマスの行き先を秘密にしなければならなくなった。

その弊害として、マルティナがここまで憔悴したのは予想外だったのだ。



「……というわけなんだ。俺は別にマルティナの幸せを考えていないわけじゃない」


弁解するように言ったフリードにエミーリアは頷く。