「とにかく、ゆっくり休んでください」
「残念ですがしばらくは葬儀の準備で忙しそうです。マルティナ様も当主の妹として人目に触れるでしょうし。くれぐれも気を付けてくださいね」
「気を付けるって何を?」
マルティナは自分の姿を見回す。最近はドレスだってちゃんと着こなせるようになったし、髪はエミーリアの侍女のメラニーがいつもきれいに結ってくれる。言葉遣いもちゃんと矯正した。うっかりでも“僕”なんていうことはもうない。
(そんなに私は頼りないのかしら)
若干の不満を抱えてトマスを見つめれば、彼は困ったように笑い、手をマルティナのほうへと伸ばす。しかし彼は途中で我に返ったようにその手を止め、手を体の脇までひっこめた。
「……まあ、わからないならそれでもいいです。私も準備のためにしばらく一緒にいられませんが、マルティナ様の呼び出しが最優先ですから、出かけたいときは遠慮なく言ってください」
マルティナはドキリとする。だけど、最優先にしてもらえるのは、単にトマスがマルティナ付きの従者だからだ。決してトマス個人にとって、マルティナが特別なわけじゃない。
「どこにも行きたくありません。トマスが忙しいのなら、部屋にいます。それより、私に手伝えることがあったら言ってね」
「はい」
トマスはにこりと笑い、マルティナを部屋まで送るために彼女の隣を歩き出した。



