わたしと専務のナイショの話

「お前、こんな時間まで残業したことないから知らないだろ」

 はあ、まだ幸い、と思っていると、
「赤外線が通ってるんだ。
 当たらないように行け。

 切ってもらってないから」
と祐人は言ってくる。

「俺に続け」
と言われ、はいっ、とのぞみは身構える。

「いろいろやってみたんだが、こうやって行くのが、一番センサーにかかりにくいようだ」
と言う祐人は、まるで、エジプトの壁画のようなポーズで手を差し上げた。

「壁際を歩けよ。
 ちょっとでも手を下げると、センサーに当たるかもしれん」

 はいっ、とのぞみは祐人のポーズを真似、一緒に壁際を歩いていく。

 非常口の明かりで二人の影が白い壁に浮かび、此処は本当に会社だろうか、と酔った頭で思ってしまう。

 エレベーターの前に着くと、
「よしっ、解除だ」
と言われ、はいっ、とのぞみは手を下ろした。

 明るいエレベーターの中は、特にセキュリティもないらしく、普通に乗れた。

「あのー、御堂さん」

「なんだ」
と階数ボタンを見ながら、祐人は言ってくる。