「そうなると、自分の時間がなかなか取れないことになる。悠と会える時間がますます・・・。」


「仕方ないよ、それはお互い覚悟の上。だからTYル-ル、決めたんじゃない。」


TYルールって私達の名前の頭文字をとっただけの、なんのひねりもないネ-ミングだけど、


①1日1回は必ず連絡を取ること。電話が理想だけど、どうしても無理な時はLINEでおはよう、おやすみだけでも言い合う。


②最低でも1ヵ月に1回は会う。


③お互い、隠し事は絶対にしない。


みどりさんの忠告や、ネットに上がってた遠恋体験者の声を参考にして決めてみました。


「ね?」


「そうでした。」


私達はうなずき、笑顔を交わした。


「お待たせ。」


そこへ、徹くんのお母さんと唯ちゃんが戻って来た。飲み物を買って来るって、言ってたんだけど、随分時間が、かかった気がする。きっと私達に気を遣ってくれたんだろうな。


ホ-ムのアナウンスが、電車が間もなく、到着することを告げる。


「お兄ちゃん、悠ちゃんばっかりじゃなくて、私にもたまには連絡ちょうだいよ。たった1人の可愛い妹なんだから。」


「自分で可愛いって言うな。とにかくお前は、みどりの言うこと良く聞いて、ちゃんと勉強しないと、俺の二の舞になるからな。あと、もう俺もソウもいないんだから、あんまり学校でヤンチャするんじゃないぞ。」


「それ、どういう意味?私、そんな問題児じゃないよ。」


ふくれる唯ちゃんに、私達は思わず吹き出す。


そしていよいよ新幹線がホ-ムに滑り込んでくる。


「悠。」


「はい。」


「行ってくるから。」


「身体、くれぐれも気をつけてね。」


「ありがとう。お前も頑張りすぎるなよ。」


「うん。」


「とりあえず、落ち着いたら、待ってるから。」


その徹くんの言葉に、私は思わず顔を赤らめるけど、しっかり頷いちゃった。


「悠ちゃん、お見送りありがとう。唯、留守の間、よろしくね。」


お母さんが、そう言うと付き添う為に、一緒に新幹線に乗り込んで行く。本当は私が行きたいけど、残念ながら、それはまだ私の役目じゃない。


ドラマのように、ドアをはさんで、最後に見つめ合いたかったけど、他の乗客に押されるように、徹くん達は、車内に入って行ってしまった。


席に着いて、私の方を見た徹くんの唇が動いた時、列車は静かに動き出した。私に伝えようとした言葉が、何だったのか、それはわからずじまいだった。


列車はあっと言う間にホ-ムを離れて行く。その最後尾が私の視界から消えて行った瞬間、私の目から、涙があふれ出して来た。


徹くんが名古屋に行くと聞いた日から、私は徹くんの前では絶対に涙を見せまいと決めていた。卒業式の日は泣いちゃったけど、あの涙は意味が違う。


寂しくないはずない、不安がないなんて強がり言うつもりもない。でもそう言って、徹くんを困らせることだけはしたくなかった。だけど、もういいよね・・・。


やっと心が通じ合えたのに、これから一緒にいられる時間がいっぱいできると思ってたのに・・・引き離すなんて、神様は酷すぎる。


だけど、私は徹くんが好きだから。だから、徹くんを信じてる、いつも徹くんのことを思ってるよ。


(離れてても、ずっと一緒だよ。徹くん!)


私は心の中で、力強く呼びかけた。




END