「俺も昔は周りからいじめられてたよ。絵ばっかり描いてたから、変わってるって。完成したものを取られて下手くそだってゴミ箱に捨てられたこともある」
「………」
「でも俺がコンクールで賞を獲ると手のひらを返したみたいに、お前はすごいなってみんなが寄ってきた。世の中、認められなきゃバカにされるもののほうが多い。だからこそ今はその認められるための途中でしょ」
天音くんがぐっと唇を噛み締めたのを私は見逃さない。
「少なくとも、今ここにいるみんなは芦沢の絵をバカにしたりしないよ。絵を描く楽しさを知ってるから。そういう気持ちを俺たちは共有できるんだ」
なぎさ先輩の厳しい中にある優しい言葉。
そう。私たちはなんの接点もないけれど、きっと好きなもので繋がることができる。
だから私は天音くんのことを放っておけなかったのだ。絵を描く楽しさを知ってる人に悪い人はいない。
先輩たちを見て私はつくづくそれを実感したから。
「天音くん。部活においでよ。待ってるから」
私の大好きな美術室や先輩たちはきっと天音くんにとっての大切な居場所になれるはず。
天音くんは返事をしなかった。
でも涙を拭いたその瞳はまっすぐに前を向いていて、悔しさを絵でぶつけようとしてる強い目だった。



