先輩は制服から私服姿になっていた。
上下セットのスウェットに足元はサンダル。身体が大きいぶんとても威圧感があり、街で見かけたら絶対にガラが悪く見られるだろう。
「おい」
そんな先輩に声をかけたのは松本先輩のお父さんだった。さっきまでとてもニコニコしていたのに怖い顔をしているし声色も低い。
「拓人。お前、また店の粘土持っていっただろ」
もしかして石膏像に使ったものだろうか。石粉粘土なんて珍しいと思ったけれど、この品揃えならばどこかに置いてありそうだ。
「在庫調べれはすぐに分かるんだぞ!」
「持ってってねーよ。ちゃんとレジに金入れたし」
「……ったく、黙って油絵をやってればいいのに」
なにやら店内が一気に不穏な空気になっている。
「言っとくけど、俺が油絵イヤになったのは親父のせいだからな!」
「なんだと!?」
私はその様子を見てひやひやとしていた。なのになぎさ先輩が呑気に他の画材を物色しはじめたので、「止めたほうがいいんじゃないですか?」と私はパーカーを引っ張る。
「平気だよ。いつものことだもん」
先輩は慣れているように言い合いしているふたりに見向きもしない。
「仲があまりよくないんですか……?」
そう尋ねるとなぎさ先輩は「実はね」と小声で詳細を教えてくれた。



