「なつめちゃん、彼氏いねーの?」
「いたことないです」
むしろ自分が誰かと付き合うなんて考えたこともない。
「松本先輩は彼女いるんですか?」
「俺がいるように見える?」
「……すいません」
「いや、謝るなよ」
そっか。松本先輩はいないのか。じゃあ、なぎさ先輩はどうだろう。
モテるらしいからいそうな気もするけれど、彼女がいることを想像したら胸がチクリとしてしまった。
「松本先輩は一年生の時から美術部だったんですか?」
気持ちを隠すように話題を変える。
「そうだよ。最初は油絵も真面目にやってたんだけど、途中でブチッってなにかが切れちゃってさ。今は彫刻の勉強中。なつめちゃんは水彩画やりたいんだっけ?」
「はい」
自己紹介の時に言ったことを覚えていてくれたようだ。
「なら、笹森に教えてもらえばすぐに上達するよ」
「なぎさ先輩にも同じことを言われました」
先輩たちからそんなに信頼されてるなんて、笹森先輩はすごいな。まだお願いしてないけれど、今日はスケッチブックを見せてくださいって頼んでみよう。
「なぎさのヤツ、笹森のこと狙ってんのかな」
「え?」
「いやいや、こっちの話!」
と言われても、声が大きいからばっちり聞こえてしまった。
笹森先輩はスレンダーで和美人って感じだし、なぎさ先輩が狙っていても不思議じゃない。
でも、この松本先輩の焦った表情。むしろ狙っているのは……。
「おせーんだよ。グズ!」
その時、中庭に乱暴な声が響いた。



