私の身体や手をすっぽりと覆ってしまうぐらい先輩は大きくて、重なってる部分がとても熱い。

そんな私の動揺なんて気づかずに先輩は耳元で説明してくれている。


どうしよう。全然頭に入ってこない。

先輩からは石鹸のようないい香りがするし、サラサラの髪の毛が首に当たってくすぐったい。


こんなに近くで男の人の存在を感じるのは初めてで……。私の心臓の鼓動が先輩に聞こえていないだろうか。


「ねえ」

「は、はい!」
  
問いかけられて思わず大きな返事をした。

すると先輩は、「手にめっちゃ力が入ってて動かせないんだけど」と、クスクスと笑っている。


「す、すいません……」

穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい。


「深呼吸して肩の力を抜いて。最初は緊張して上手く鉛筆を動かせないかもしれないけど、こういうのは慣れだから。俺も絵を覚えたての頃はデッサンなんてガタガタだったし、そんなに力まなくても大丈夫だから」


先輩の優しい言葉に「はい」と返事はしたものの……。

緊張してしまったのはデッサンが原因じゃなくて先輩が近くにいるからです、なんて言えるはずがなかった。