そのあと部活が終わり、描きかけのキャンバスをイーゼルに立て掛けたまま部屋の隅に移動させていると……。
「なつめ」と、なぎさ先輩に呼ばれた。
なんだか久しぶりに声をかけてもらったような気分になり、心臓が一瞬で跳ね上がる。
「は、はい!なんでしょうか」
かしこまったように答えるとクスリと笑われてしまい、この笑顔も久しぶりな気がして胸が詰まる。
「あのさ……」
先輩の声が小さくなったのと同時に手招きをされた。
なにか大きな声で言えないことかもしれないと近づくと、そのまま先輩は前屈みになり、そっと耳打ち。
「今日の夜、出てこれない?」
鼓膜に直接響く声にぞくっとした。
「よ、夜ですか?」
まさかこんなことを言われるなんて思ってなかったので、頭はぷちパニック。
「うん。七時くらい」
「平気ですけど、どうして……」
「平気なら家まで迎えにいくね」
「え、え……?」
私の質問なんて無視して、先輩は強引に約束を成立させてしまった。
なにがどうなっているのだろう。先輩から会おうなんて、しかも夜に。
そんなことを言われたら平常心でいられるわけもなくて、帰宅してからずっと時計の針ばかりを気にして、気づけば約束の七時になっていた。



