「ちょっと、いい肉ばっかり食べないでくださいよ!」
時刻は7時。五人で座るにはあまりに狭い場所に私たちはひとつのお鍋を取り囲むようにして、すき焼きを食べていた。
「つか、なんですき焼きなのに豚肉が入ってんの?」
天音くんに注意された松本先輩はしぶしぶ豚肉を箸で取る。
ここは松本先輩のお部屋。リビングで食べる予定だったすき焼きを、わざわざ先輩のお父さんがコンロごと部屋まで持ってきてくれたのだ。
バタバタしてしまい手伝うことはできなかったけれど、お父さんが作ってくれたすき焼きは美味しくて、割り下の比率が絶妙だ。
「牛肉が高かったからに決まってるじゃないですか。さっきから松本先輩が豚肉を避けて食べてるの僕見てますからね」
天音くんは、鍋奉行ならぬすき焼き奉行でお肉を入れるタイミングや野菜とのバランスも厳しい。
「いいじゃん。牛肉ばっかりでも。俺の金だし」
「……小さい男」
「ちょっと芦沢くん」
まるで詩織先輩を真似したような言葉に、詩織先輩が鋭い視線を送る。
詩織先輩はたくさん泣いて今は落ち着いていた。まだ心の傷は癒えてないと思うけれど、どこかスッキリした表情にも見える。



